NEC製「 VersaPro VK18T/G-G」は薄型タイプがまだ主流と言い切れなかった2013年に、厚さ約15mm重量890gという薄さと軽量さを備えて販売されたノートPCでした。
しかしその薄さが仇となったのか、今回の個体は液晶ディスプレイが割れてしまっています。
液晶ディスプレイを自分で修理し、再び使用可能な状態を取り戻すことができるのか。
無事に修理を終えることが出来たとして、コストや手間に見合う価値はあるのか。
簡単にではありますが、記事にしてみたいと思います。
知人からの修理依頼
事の起こりは知人からジャンクPCの修理依頼が入ったことです。
PCの状態は
- 液晶ディスプレイが割れている(表示不良)
- 電源は入るがBIOSが立ち上がっているかは不明
- SSDが抜かれている(OS起動・リカバリ不可)
- 付属品は一切ない
と散々な有り様。
「壊れているもの、足りないものは全て揃っているため作業だけやってほしい。ついでにWifiモジュールも交換して欲しい。お礼にブログのネタにしても良い」とのことでした。
随分なご親切さに感涙しつつ、保証はできないことを条件に引き受けた次第です。
基本情報の確認
というわけで我が家にやってきた、VersaPro VK18T/G-G(液晶割れ)は2013年5月にNECから発表されたモバイルノートPCです。
一般的には「NEC VersaPro UltraLite Type VG」の名で官公庁や企業向けに販売されていた製品らしく、最小構成での希望小売価格も261,000円(税別)とそこそこの高級品だった様子が伺えます(実売価格は更に安価でしょうが)。
具体的には以下のようなスペックです。
CPU | Intel Core i5-3337U 1.80GHz (Turbo Boost 最大2.70GHz) |
---|---|
チップセット | Mobile Intel UM77 Express |
メモリー標準容量 | 4GB |
メモリースロット数 | オンボード [固定] |
内蔵ディスプレイ | 13.3型ワイドTFTカラー液晶(HD+:1,600×900) |
GPU | Intel HD Graphics 4000 |
音源 | ステレオスピーカ内蔵 |
ワイヤレスLAN | IEEE802.11a/b/g/n準拠 |
Bluetooth | Bluetooth Ver.4.0+HS対応(Class2) |
キーボード | JIS標準配列(85キー) |
マイク | ステレオマイク内蔵 |
カメラ | Webカメラ内蔵 |
ポインティングデバイス | NXパッド |
SDカードスロット | SD(SDHC/SDXC)メモリカードスロット×1 |
USB | USB 3.0×1、USB 2.0×1 |
ディスプレイ出力 | HDMIポート×1 |
ライン出力 | ステレオミニジャック×1(ヘッドフォン出力と共用) |
ヘッドフォン出力 | ステレオミニジャック×1(ライン出力と共用) |
バッテリ駆動時間 | 約6.5 - 9.7時間 |
バッテリ充電時間 | 約2.5時間 |
外形寸法(突起部除く) | 313(W)×209(D)×14.9(H)mm |
質量 | 約890g |
一般的にはネットサーフィンやオフィス用途であれば、2020年現在でも十分運用可能な水準の性能ではないでしょうか。
個人的にはオンボード固定の4GBというメモリーに眉をひそめたくなりますが。
状態の確認
それでは現物の状態を確認していこうと思います。
なお本記事では特段の記載がない限り、開放側を「手前(写真下)」、ヒンジ側を「奥(写真上)」として扱います。
また開放状態では、トラックパッド側を「手前(写真下)」、液晶パネル側を「奥(写真上)」として扱います。
注意
ここから先の作業はすべて非公式の作業であり、安全性、確実性、正確性など一切保証できるものではありません。
再現を試みる場合はくれぐれも自己責任でよろしくお願いします。
写真ではわからないと思いますが、細かいキズや掠れが目立ちます。
とはいえビジネスシーンで活用されたモバイルPCと考えれば、目立つ汚損はありませんし及第点かと思います。
裏面にも特に傷みは見受けられません。
シリーズ名ははVK18TG-G、詳細な型番はPC-VK18TGJDDLUGであることが確認できました。
Windows 10向けにドライバーなどの配布も行われているようで、リカバリーメディアが無くとも困ることはなさそうです。
折りたたまれた内側は、外側以上にキレイですが…。
余談ですがグレア液晶のため自分が写り込まないよう必死で撮影しています。
レリーズを買っておいてよかったと心から思いました。
いくつかのキートップの塗装はかなり剥げてしまっており、相当酷使されてきたことが伺えます。
左サイドのSDXCカードスロットに特段の問題は見受けられません。
右サイドの各種インタフェースも問題はないでしょう。
写真一番右の見慣れない黄色のコネクタは、電源ケーブル用ソケットです。
電源アダプターはエレコム製互換品を渡されました。
ちなみに後々気づいたのですが、公式サイトの適合表では「VK18T/G-G」に対応するとは書かれていません。
動くことは動きましたが、真似をされる方は自己責任でよろしくお願いします。
プラグ部分が90度回転して、向きを選ばずかなり便利なアダプターです。
メーカーから適合のお墨付きがあれば、オススメできるのですが…。
さて、いよいよ電源ケーブルを接続し起動してみたのですが、写真の通りの状態です。
かなり酷い状態で動作確認は行えないかと思ったのですが、右上の亀裂の中心部分を抑えるとBIOS画面の一部が微妙に表示されました。
システムの動作に支障はなさそうなので、このまま修理へ移ることにしました。
内蔵バッテリーの取り外し
液晶パネルのコネクタを操作するので感電などの防止のため、バッテリーコネクターを外しておきます。
本体裏面には写真のような目隠しが存在します。
糊付けされているため、ドライヤーなどで温めてから円周に沿ってカッターなどを差し込み剥がします。
マイナスドライバーのように細いものだと目隠しが歪んでしまうため、薄く少し幅のあるものがオススメです。
後ほど貼り直したい場合は注意してください。
目隠しが剥がれると写真のようにネジが出てきます。
プラスドライバーでネジを取り外します。
販売業者がSSDを取り外した際にやらかしたのか、いくつかのねじ山が潰れてしまいました。
あまりネジに強度はないようですので、精密すぎるドライバーは使わず大きめのものから順に試してギリギリ入るもので作業することをオススメします。
このように12箇所の目隠しとネジを取り除くと、底面パネルを外すことができます。
底面のパネルを外した状態です。
画像中央の3色(黒白赤)の複数ケーブルが生えたコネクターが、バッテリーとメイン基板を接続しています。
まずオレンジのシール部分を写真右側から軽く剥がします(すべて剥がしきる必要はありません)。
オレンジのシールを剥がした下には、白いプラグの爪が隠されています。
マイナスドライバーなど細くて平らなものを引っ掛けて、写真の右側に向かって力を入れます。
感電の可能性がまったくないわけではありませんので、心配な方は何らかの絶縁対策をされたほうがいいと思います。
写真のような状態になれば、バッテリーとメイン基盤のコネクタを取り外すことができています。
続いて液晶パネルの交換に移りましょう。
割れてしまった液晶パネルの交換
本題にして最難関の液晶パネル交換を行います。
ヒンジ部分をサイドから見ると目隠しがあるため、底面と同様にドライヤーとカッターを用いて剥がします。
底面と違って傷のつきやすい樹脂製のため、心配な場合は樹脂のヘラやピンセットなどを活用したほうが良いかもしれません。
目隠しを外すとネジが現れるため、これもプラスドライバーで取り外します。
底面のネジと同じサイズのドライバーで取り外すことができます。
写真のように完全にねじを取り外すことができたら、この黒いヒンジ部分を上下からつまみ、軽く力を入れます。
ヒンジ部分が力でたわむと液晶ディスプレイのフレーム(ベゼル)部分との間に隙間ができます。
隙間が確認できたら、爪を折らないよう慎重に写真の手前方向に向かって引き抜きます。
続いて液晶ディスプレイのフレーム(ベゼル)部分の取り外しを行います。
天板と黒いフレームの間に薄い板状のものを差し込み、少しずつ爪を外していきます。
こういう作業に興味がある方は、分解用のヘラはさほど高くないため購入しておくことをオススメします。
すべての爪を外し終えてもフレームを取り外すことはできません。
写真の矢印の間部分が両面テープで固定されていますので、ドライヤーなどで温めてから薄く長いヘラを差し込み剥がしましょう(作業中の写真は撮り忘れました)。
両面テープの再利用は難しいと思いますので、容赦なく剥がしてしまいましょう。
ただし、パネル交換の場合は心配ありませんが、そのまま使う場合は破損しないよう慎重に作業してください。
両面テープをすべて剥がすことができれば、写真のようにフレーム部分を取り外すことができます。
液晶パネルの左右と上の辺は細く黒いテープで固定されていますので、剥がしてしまいます。
これも再利用は難しいと思いますので、思い切って剥がしたほうがいいと思います。
液晶パネル右下の基盤を固定する銀色のネジ(写真中央)を取り外します。
黒色のネジは無関係のため外す必要はありません。
液晶パネル左下にも基盤を固定する銀色のネジ(写真中央)があるため、取り外します。
作業の都合上、PCを上下反転させた状態(写真上がキーボード側、下が液晶パネル側)になっています。
まず液晶パネルと下の基盤をキーボード側(写真上)に倒すと、基盤裏の左側(写真右)にバックライトケーブルのコネクターがあります。
黒いカバーを基盤に対して垂直に起こし、ケーブルを右(写真左)に引いて取り外します。
続いて基盤裏の右側にある映像信号のケーブルを取り外します。
写真で見えている透明部分のテープと裏側の黒いテープを剥がしてから、ケーブルを写真の下方向に向かって引くことで外せます。
外す際の写真は取り忘れてしまいました。
ここまで作業が正しくできていれば、PC本体と液晶パネルを完全に分離させられるため、新しい液晶パネルを逆の手順で取り付けていきます。
ただし、SSDやWi-Fiなどの交換作業を行う場合は、底面パネルは外したままにしてください。
ところで、交換用の液晶パネルのラベルには「適用修理交換用NEC Ver...A02S HW13HDP103 新品」との表記があります。
「HWHDP103」という型番は元々装着されていた液晶パネルのラベルにも印字されていたため、この型番で検索してヒットするものが適合品だと推測されます(公式な情報など確認できないため保証はできません)。
代わりのSSDの装着
中古での購入時点でSSDは取り外されていたとのことで、代わりのSSDを装着する必要があります。
底面パネルを取り外して見たメイン基板の左側に、mSATAコネクターがあります。
通常は純正のSSDが接続されていますが、取り外されているため代わりのSSDを装着します。
今回の場合は固定用のネジ2本が残されていたため、事前に取り外しておきました。
mSATA端子に切り欠きを合わせてSSDを挿し込んだ後、ネジ2本で固定します。
今回依頼者から渡されていたSSDは「TC-SUNBOW m3 240GB」という中華製の格安SSDでした。
240GBのものは流通量が減っているのか、2020年3月現在では割高な印象です。
本PCでの動作を保証できるわけではありませんが、単体で見た場合トランセンド製「TS256GMSA230S」などのほうが信頼性が高く安価だと思います。
WiFiモジュールの交換(11n → 11ac)
本PCに標準装備されているWiFiモジュールは11nまでの対応で、2020年3月現在はやや時代遅れ感があります。
11ac対応モジュールは容易に購入できるため、交換してしまいます。
底面パネルを取り外して見たメイン基板の右側に、Mini PCI Expressスロットに接続されたWiFiモジュールがあります。
標準では「Intel Centrino Advanced-N 6235(型番:6235ANHMW)」というWiFiモジュールが接続されていますが、IEEE802.11nまでの対応となります。
白黒2本のケーブルの端子にロックなどはないため、そのまま基盤に対して垂直方向に取り外します。
その後固定用の2本のネジを取り外し、WiFiモジュールをMini PCI Expressスロットから引き抜きます。
WiFiモジュールをMini PCI Expressスロットから取り外すと写真のような状態になります。
撮り忘れに気づいて交換後に取り直した写真のため、既にWifiモジュールが変更され、ケーブルも接続し直されています。
あくまでイメージということで。
逆の手順で新しいWiFiモジュールを取り付けます。
交換後のWiFiモジュールは「Intel Dual Band Wireless AC 7260(型番:7260HMW)」という製品です。
標準と同じIEEE 802.11nはもちろん、より高速なIEEE802.11acにも対応しながら、2020年3月現在3,000円程度で購入が可能です。
動作の確認
ここまでの作業で液晶パネルの交換、SSDの装着、WiFiモジュールの更新のすべての作業が完了しました。
バッテリーとメイン基板を接続し直した上で背面パネルを閉じ、動作の確認に移りたいと思います。
電源を投入すると修理前にはまともに表示されなかったBIOS画面が、しっかり表示されています。
SSDも認識されていることが出来るため、液晶パネルとSSDの交換は正常に完了したものと判断できます。
この後Windows 10のセットアップを行うため、[Advanced]タブの[Device Configuration]を開き、[SATA Controller Mode]が[AHCI]であることを確認します(異なる場合はAHCIに変更します)。
[Boot]タブを開き、[Boot Mode]を[UEFI]に変更します。
これにより2TB以上のストレージを認識可能となるため、敢えて[Legacy]モード(BIOSモード)を利用する必要はないと思います。
UEFIを有効にすることで使える高速起動[Fast Boot]は、いざというときにBIOSに入るのが面倒になるため、[Disabled]のままにします。
また、必要に応じて起動デバイスの優先順位を変更しましょう(個人的には画像のような外部メディアを優先する設定をオススメします)。
すべての設定が完了したら、[F10]キーを押して設定を保存して終了しましょう。
無事Windows 10のインストール完了と起動を確認!
初回セットアップの最中からWiFi接続が行われたため、WiFiモジュールが正しく動作していることも確認できています。
またその他のドライバーもすべて自動でインストールが行われ、NECのサポートページで配布されているものより新しいバージョンが適用されていました。
ベンチマークや実際の使用感など
7年も前のモバイルPCのためベンチマーク性能を期待するものではありませんが、せっかくなのでCinebench R20とCrystalDiskMarkを走らせてみました。
Cinebench R20のスコアは「430」です。ちなみにデフォルト設定のままなのでマルチスレッドでのスコアということになります。残念ながらぶっちぎりの最下位12位です。
個人的に興味深いのは、10位Intel Core i5 3550や9位のIntel Core i7 4850HQとの対比です。同世代のデスクトップ向けCore i5にはダブルスコア、1世代進んだモバイル向けCore i7にはトリプルスコア以上の差をつけられているポイントです。
デスクトップ向けはもちろん同じモバイルCPUでありながらここまでの差がついたのは、モデルナンバー末尾の「HQ(ハイパフォーマンス)」と「U(低消費電力)」の違いが表れた結果なのでしょう。
低消費電力向けプロセッサーが省電力性や発熱対策のために以下に性能を犠牲にしているかが如実に表れたランキングと言えそうです。
内蔵SSDのベンチマーク結果です。「AHCI / mSATA」接続のため昨今の「NVME / m.2」接続のスコアとは比べるべくもありませんが、それなりのスコアが出ているのではないでしょうか。
率直に言わせて頂ければ格安中華SSDでも実用には十分だなといった印象です。
このようにベンチマークではパッとしない結果ではありますが、実用上は特段問題がありません。電源ONから30秒程度で起動しますし、その後の動作も特段遅い印象はまったくありません。
Webやメールの閲覧、オフィス用途に限れば7年落ちジャンクノートの修理品でもまったく問題のないパフォーマンスを発揮してくれると思います。
まとめ
これにてジャンク品のNEC VersaPro VK18TG-Gの修理およびアップグレード作業は完了となります。
個人的に大変に感じた作業は、液晶ディスプレイのフレームを取り外す行程でした。
ツメが折れてしまわないよう慎重な作業が必要となるため、分解用のヘラなど十分な準備が必要だと思います。
その他の作業については、コネクターなどはほとんど誤って接続できないよう対策が施されているため、特に難しいと感じる部分はありません。
自作PCなどを触った経験のある方であれば、十分対応できる範疇の難易度だと思います。
ところで、今回の作業にかかった経費ですが、依頼者に確認したところ以下のような概算でした。
本体ジャンク品 (PC-VK18TGJDDLUG) |
約6,100円 ※送料込み |
---|---|
交換用液晶パネル (HW13HDP103) |
約8,800円 |
mSATA SSD (m3 240GB) |
約4,500円 |
WiFiモジュール (7260HMW) |
約2,700円 |
合計 | 約22,100円 |
Amazonやヤフーオークションなどで同シリーズ「VK18T/G-G」の中古品を検索してみると、 2020年3月現在の相場は概ね13,000円から30,000円未満です。
ちなみに13,000円程度の品物でも、Microsoft Officeのライセンスが付与されている模様。
修理の手間などを考えるとジャンク品の修理に見合った価値があるかと言われると…。
結論としては、修理に用いたパーツの素性を自分で把握しておきたい人、または機械いじりを趣味として楽しめる人「だけ」、ジャンクの「VK18T/G-G」を購入することをオススメできるかな…といった印象でした。